きら きら きらり

人はだれしも生まれながらにして神様からキラキラしたものを頂いている。誰でも、かならず。

うつだった時のはなし①

うつだった時のはなし①

 

大学生の時にうつになった。


それまで「うつ」という病気の存在も知らなかった。

何となく眠りが浅い日が増えた。そして眠れない時間も少しずつ増えていった。

もともと自尊心がかなり低かったのだが、さらにネガティブな思考が増えた。

初めはうつとは思わなかったし、なんかしんどいな、元気が出ないな、落ち込みやすいな、と思う程度だった。


ある時、自分がおかしいということに気がついた。

それは何気ないことだった。

 

信号待ちをしていた時のことだった。

待つことに異常にイライラしている自分に気がついた。

急ぎの用事があるわけではない。信号待ちをしても時間には全く問題ない。

なのに赤信号のたった数十秒が待てない。激しくイライラしている。

「普通じゃない。」

「わたし、おかしい。」

そう思った瞬間、自分の鬱に気がついた。

 

テレビで漫才の番組をやっていた。

お客さんがドッと笑う。

でも私には何がおもしろかったのか全く分からない。テレビの前で本気で考え込んだ。

全然、全く、何も、分からない。

おもしろいという気持ちも、笑うということも、どういうものだったのか思い出せなくなっていた。

 

自分が正気でないことに気がついてからは坂道を転がり落ちるように具合が悪くなった。

必死に踏ん張っていた最後の力が、自覚によってプツリと切れたのかもしれない。

 

心療内科に通うことになった。

 

死にたいという気持ちに苛まれるようになった。

波のように何度も押し寄せては引いての繰り返し。

そのうちだんだんとその闇に飲み込まれるようにして、死にたいという気持ちが常に自分の影のようにつきまとうようになった。

眠れる日はまだいい。

眠っている間は何も考えすに時間が進むから。

起きている間は生き地獄のようだった。

心臓を握り潰されているような感覚。

布団の上にとてつもなく大きなオモリが乗っていて体が潰されそうな感覚。

一分一秒がとてつもなく長い。

過呼吸のようになって息がうまくできない時もある。


気が狂いそうなほどの「死にたい」の波が押し寄せる時は頓服の薬を飲む。

間も無く落ち着くが、効果が切れるとまた同じ。


頓服を飲む回数も増えていった。


お薬が効きすぎて昼過ぎまで眠ってしまったり、生活リズムが狂い、大学にも通えなくなった。

一度も単位を落としたことなどなかったが、単位を落とした。

自分は何もかもダメだ、生きている意味がない。

生きていてもただ消費するしかできない。お金だけがかかる。

意識がある時間は生き地獄でしかなかった。

 

ほぼ一日中、布団の中で横になっていることが多くなった。

家族からは休んでいるように見えるだろうけれど、心の中は常に戦争。

死にたい死にたい死にたい

家族に迷惑をかけている

わたしなんか居ない方が家族も幸せに暮らせる

無駄なお金も使わなくていい

苦しい

こんなに苦しいなら死んだ方がましだ

生き地獄


頭の中は常にこんな思いが渦巻いていて、感情的な自分、理性のある自分、怪物のような闇、いろんなものが戦っている。

体は横たえているけれど、ものすごく消耗する。

眠れればいいが、眠れない。

 

心療内科はどこも予約制だった。


うつの発作が来た時にすぐ話を聴いてもらえるところはなかった。

予約が取れても待ち時間が長く、人の中に長時間いることが辛かった時もあった。

順番が来てもたった10分程度話を聞いて、薬の種類や量が変わるだけだった。

そしてその薬が体に合わずに余計に鬱になることもあった。

何より、その10分の診療と薬に2000円とか3000円とか支払うことが辛かった。

 

アルバイトもできない、学生の本分である学業もできない、親にも経済的な余裕があるわけでもない、回復の兆しも見えない。

お金をドブに捨てているような、自分は罰当たりだという気持ちにもなった。


実際、自分が生きていることそのものが罪で、制裁を受けているのだ、それが当然のことなのだと思っていた。


でも、そうではなかった。(②につづく)